THE 倒産!


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53.7年の時間が過ぎて…。

 

2007年11月、民事再生申立を決めた時、自分が思っていたことは、まずは店舗の営業継続でした。
店舗の営業を続けることができれば、従業員の方々の雇用も、仕入業者様との取引も継続ができ、一時的に大きな迷惑をかけてしまうけど、将来的にお互いが良くなっていくような“これから”につなげることができると信じていました。
そして、当時の営業店舗は1店舗を除くすべての店舗が、複数の再生スポンサー様に引き継いで頂き営業継続ができました。
しかし7年が経った2014年の現在、引き継がれた当時のままで営業している店舗はわずか1店舗だけとなっています。
店舗を引き継いでくれた3社のうち、2つの会社はその後なくなってしまいました。
「関わっている皆を守りたい…」と言って動いた結果、7年経った今現在、それはほとんどすべて守れなかった…、というのが現実なのです。
自分自身のあの時の選択は、今現在のこの結果を見れば間違っていたのかもしれない…と、この現実が自分の心の中にずっと引っかかっていて、その後自分自身が何か新しいことに挑戦していく気持ちにはどうしてもなれませんでした。
今の自分がもう一度、あの時のあの場面に戻ることができたなら、数年後のこの現実の結果を知る自分は、おそらく違った選択をするのではないかと思うと、どうしてもそうした過去の出来事を吹っ切って前へ進んでいくことに躊躇いの気持ちが出てしまっていたのです。

 

会社を処理して、自らの自己破産をして、今の仕事に落ち着いてきた頃、当時のことを話して欲しいと言われ、経営指導者が集まる勉強会で講演をさせて頂くことがありました。
この時、講演後の質問で「当時の選択は、今振り返ってみて良かったと思っていますか?」という質問を受けました。
自分は「良かったと思っています」と即答しました。
果たして、この答えは本当の自分の気持ちだったのだろうか…と、その後ずっと考えていました。
自分の本心は、別の気持ちであるように思えて、だからこそこうしていつまでも心の中で引っかかっているように感じていたのです。

 

昨年、2013年9月に父親が亡くなりました。
父親は、晩年の数年間は認知症の進行が激しく、話すことはもちろん、自分で動くこともまったくできませんでした。
入所していた施設へ父親に会いに行った時、何か話そうと思って声をかけるのですが、自分が父親に話しかけることって、かつて自分たちの会社をやっていた頃の困った出来事ばかりで、自分でも何だか変な感じで可笑しく思いました。
父親と共通の思い出って、この頃のことしかないのです。
よく喧嘩もしたし、お互いの存在が煩わしく思っていたことが随分あったはずなのに…。
何も話せない父親は、いつも一方的に昔のことを話す自分の顔をじっと見つめていました。

 

父親の葬儀は、自分たちの現在の境遇を考えれば広く知らせることもしない方が良いと思い、地元新聞のお悔やみ欄に、肩書も付けず名前だけ小さく載せてもらいました。
それでも、当時の父親を知る多くの方々がお別れに足を運んでくださいました。
葬儀が終わり、しばらく経った後にも、話を聞いて「驚いた!」と言って、父親の自宅を訪ねる方が続きました。
あの倒産処理によってご迷惑をかけた多くの方々が、父親に手を合わせてくださっている姿を見ていて、それでも自分には複雑な気持ちが残っていました。

 

今年、父親の一周忌を迎えるにあたり、生前父親が「ここに墓を作りたい…」と言っていた場所に父親の墓を作りました。
その場所は、私たちの住んでいる街を一望できる場所でした。
この場所に立ち、そこから見える景色を眺めた時、ここに眠りたい…と言っていた父親が想っていたことが、何となくわかるような気がしてきました。
そして、今を生きている自分たちに何かを伝えようとしていることがあるような…、そんな感じがしてならなかったのです。

 

自分たちは、この景色の中で生きている…。

 

父親の自宅も、生まれた家も、創業した店舗も…、みんなこの街の景色の中に見えるのです。
街の景色の先には、はるかに広がる関東平野が見え、父親はよく「東京まで見える…」ということを言っていました。
東京には、自分も含め子供たち3人が暮らしていた時期があったことを思うと、この場所から、遠くに見える景色を見ているその当時の父親の姿が目に浮かびました。
こうして、目の前に広がるこの景色の街の中で、悩んだり苦しんだりしながら懸命に生きてきた…。
自分たちはこの景色の中で、自分の時間を積み重ねて生きている…。

 

そして、改めて思いました…。
自分が積み重ねてきた時間は、決して消えることはない。
自分の積み重ねてきた時間を、吹っ切ろうとか、忘れようとか、そんなことを考えるのはやめよう。

 

こんなことを感じて、改めて過去のあの出来事を振り返ってみようと思い、記し始めたのが11月からのこのBlogでした。
もう一度、あの時と向き合ってみようと思っていました…。

 

 

(2014年12月29日発信)


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