介護生活 119番!


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「終わり」の時…。

今、仕事場である自分の施設にいるおじいちゃんが、最期の時を迎えようとしている。
自分のいる施設は「ショートステイ」という短期入所の施設なのだが、このおじいちゃんは訳あってこの施設にずっと長く住んでいた。
たった一人の身内である弟さんが千葉県に住んでいるが、交流はまったくないようで、生活保護を受けている。
癌の末期で、去年の後半から入退院を繰り返していた。
退院してきて1ヵ月くらいすると、食事が取れなくなり救急車で運ばれる…、この繰り返しだ。
先週、また施設に戻って来たのだが、今週の水曜日から何も飲み込めなくなった。
このまま施設で看取るのか、再度病院へ搬送するのか…、意見が様々だ。

 

「ショートステイ」でそこまでやる必要はないので、病院へ送ろう…。
これまでずっとここで暮して来たのだから、このまま看取ろう…。
経営者サイドも、意見が二転三転している。

 

先週、退院を受け入れた段階で、看取る覚悟をしていたのだが、ここにきてまたいろいろなご意見が出てきて、施設職員の対応の大変さもあり、再度どうしようか…ということになっている。
結局、バイタルチェックの数値が低下した段階で、協力医師に連絡を取り指示を仰ぐことにした。
夜勤者は、まず自分に連絡を入れることになっているので、自分が医師と相談して最終的な判断を伝えることになりそうだ。

 

退勤時、このおじいちゃんに声をかけた。
耳元で大きな声で呼びかけると、まぶたがピクピクと動いた。

 

「もうすぐ、桜が咲くよ…」

 

去年の暮、職員の皆で、このおじいちゃんが桜を見られるかどうか…という話をしていた。
先週、施設に戻って来た時に、「桜が咲いたら、花見に行きましょう…」と言うと、うなずいていた。

 

開花予想によると、来週には…という所なのだが、どうだろう…。

 

 

朝、6時に施設の夜勤者から電話が来た。
昨日のブログに書いたおじいちゃんの容態が悪化しているとのこと…。
とりあえず、行ってみる。
バイタル数値は、持ち直したり、悪化したりの一進一退の状態が続き、昼過ぎに呼吸が止まりそうな状態になり、サチュレーションが50%を割り込んだりするようになる。
看護師と相談の上、救急車を要請した。
かかりつけの病院へ救急車で搬送するのは何度めだろう…。
自分が付いて行ったのだけでも3度目になる。
救急隊員にもいろいろ聞かれたが、末期ガンの高齢者で、身寄りもないことを話す。
病院でも、「以前から延命措置はしないと聞いていますが、それで良いですね?」と聞かれる。
自分がその問いに答えるのは、何とも複雑だ。
それでも、そのおじいちゃんは病院で自発呼吸を取り戻し、病室へと運ばれた。
この後、入院の説明を聞くのだが、今日は亡くなった場合にどこへ連絡するか…ということを確認された。
今までの入院時には、こんなことを聞かれたことはなかったので、いよいよ…その時が近いようだ。

 

人間だれもが迎える最期の時…。
「始まり」があれば、「終わり」がある。
「始まり」の時は、必ず母親と一緒にいる。
「終わり」の時は、人それぞれだ…。

 

『…今、おまえが生まれ、みんながおまえを見て笑い、おまえは泣いている。
…おまえが逝く時には、おまえが笑い、みんなが泣くような、そういう人間におなりなさい。』

 

…この言葉を思い出しながら、口や腕からチューブを入れられているこのおじいちゃんを見ていた。
声をかけてみたが、意識はないようだった。
施設に戻ろうと、もう一度このおじいちゃんを見ると、半開きの目で自分の姿を追っているような感じがした。

 

身寄りもなく、最期の時には、誰もそばにいないかもしれない…。

 

だけど、少なくとも自分は、もうダメだろうという状態を何度も何度も越えていくこのおじいちゃんの姿に、心打たれてきた…ということを、ここに記しておこう。

 

 

(2010年3月20日発信)


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