THE 倒産!


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43.誰にも会いたくなかった…。

 

2007年11月21日から26日まで、民事再生申立に向けての準備は、弁護士事務所主導となって着々と進んだ。
自分は、変な行動を取らないように…、ということだけ注意されていていた。
事前にこの情報が漏れてしまうと、債権者となる方々がどう動きだすかわからないので、裁判所に申立書類が受理されるまでは誰にも話さないように…、ということで準備を進めていたが、準備が最終的な段階になると、逆に知っておいてもらわないと準備に混乱を起こすことも出てくる。
この時期からは、ごく一部の社員にはこの後の会社の動きを説明していった。
民事再生申立後、会社の口座はすべて利用不能になるので、前もってその準備が必要だ。
例えば、大型SC店舗の売上金の入金口座は、債権者となる金融機関以外の口座に入金してもらうよう変更手続きを取ったり、11月末の支払についての手続きはしないように指示したり、でも月末日以外の日に支払日を決めている業者さんへの支払はどうするかとか、そうした最終的な判断をまずは経理の担当責任者に話した。

 

そして、自分自身も“その時”に向けた個人的な準備を進めていった。
この段階に来て、自分自身が会社業務で動くことがなくなってしまっていて、どう過ごしていいかわからない時間が突然できた数日間だった。
自分の業務用車のタイヤを冬用に交換したり、インフルエンザの予防注射を打ったり、“その時”以降はそんな個人的な行動は一切できなくなるとわかっていたので、この期間にできることはどんどんやるようにしていた。

 

個人的に…、と言えば、自分の家族に対しても…。
家族の中であったことは、この段階に来るまでにも様々なことがあったのだが、これは今現在振り返る気にはまだなれない。
いずれもっと自分が年老いてから、別の機会に振り返りたい…、と思っているので、ここでは触れないでおく。

 

そして、準備の最後として申立書類を裁判所に提出する前日、11月26日の夕方にメインバンクに行くことにして、先方に約束を取った。
これは、申立によって最大の債権者となるのはメインバンクであり、このことについて他の債権者よりも一番先に、申立前にそれを伝え頭を下げておきたいと思った。
思えば、この時期にこの決断をするとは、つい数日前まではまったく考えていなかった。それが、様々な思いがけないことが起こる中で決断し、ここまで来てしまった…。
現在の自分の気持ちを話し、まず最初にそれを伝えておこうと思った。
また、申立後の処理に関しては、最大債権者であるメインバンクが早い段階で処理を進める判断をしてくれないと先へ進まなくなる。
裁判所へ行く前日にメインバンクへ行くことは、本当に苦しかった。
できれば、誰にも会いたくなった…。
できればどこかへ逃げてしまいたかった…。
でも、それでは先へ進んでいかない…。
そんな複雑な思いでいっぱいだった。

 

こうした準備の中、時間を見つけては父親に会いに行った。
創業した父親の会社を引き継ぎ、この決断をするに至ってしまったことに対しての申し訳なさは、ずっと自分の心に重くのしかかっていた。
倒産処理を決断したことを伝えた時、父親はニコニコと笑いながら頷いていた。
以前のように普通に話すことが大変になっている父親は、「わかった…」とか、「それでいい…」とか、そうした言葉を時々発しながら、ニコニコと自分の話を聞いていた。
それが本人はどこまで理解しているのかはわからなかったが、ある意味認知症の症状が進んでいて救われた思いもあった。
わからなくて笑っていたのか、本当はわかっていて笑ってくれていたのか…、今となっては本人に確認することもできないが、自分が深刻な状況を話しに行くと、いつもニコニコと笑顔で聞いていた父親にどんなに自分が救われた気持ちになったかわからない。

 

こうして、時間は会社最期の時へ向かって進んで行くのだった…。

 

 

(2014年12月19日発信)


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